帽子づくりには大きく二つのアプローチがあります。
ひとつは「プレス成形」。両側から圧力をかけて繊維を押し込み、金型で形をつくる方法です。効率が高く、大量生産に向いているため、規格のそろった形やサイズを揃えるのに適しています。今では帽子づくりのスタンダードな工程になっています。
ただし、繊維に強い圧力がかかることで、素材本来の柔らかさや風合いが抑えられてしまうこともあります。
森安が歩んできたのは、もう一つの道 ―「手蒸し」です。
手蒸しというアプローチ
森安では、湯気を当てて繊維を切らないように、木型にあてながら少しずつ形を整える「手蒸し」の技を守り続けています。プレスに比べると工程は格段に多く、途中でやり直すこともしばしば。決して効率的ではありませんが、その分だけきめ細やかな対応ができます。
- 「あと2ミリ高く」
- 「もう少し傾斜をつけて」
- 「子ども用のサイズに近づけたい」
こうした細かなリクエストに応えられるのは、手仕事だからこそ。素材をつぶさず、ふんわりとした風合いを残したまま、自由度の高い形づくりが可能になります。
小ロット・一点ものにも対応

森安には「一点からお願いしたい」という相談が数多く寄せられます。
例えば、
- 大人用サイズの帽子を、頭が小さい方のために52cmで特注したい。
- 全体は大人サイズだが、かぶり口だけ子ども用サイズに変更したい。
- 既製品では合わない細かな頭の形やサイズの悩みに合わせた設計をしたい。
こうした要望に応えるには、木型を変えたり、細かい調整を繰り返したりと大きな手間がかかります。だからこそ「他では難しいものは森安へ」と相談が集まってきます。
積み重ねた木型という財産

森安には、70年以上の歴史の中で積み重ねてきた400を超える木型があります。この蓄積があるからこそ、特殊サイズや細かなニュアンスにも柔軟に対応できるのです。既存の木型を活かすだけでなく、必要があれば新しい木型をつくり、依頼に合わせて仕立てます。
標準的な仕様であれば、他の工房でも十分に対応できます。でも「難しい」「手間がかかる」特殊な仕様や細かな調整が必要なものは森安に。その背景にあるのは、積み重ねた木型と受け継いできた技術があるからです。
これらを礎にしていることが、森安の強みであり、私たちの誇りでもあります。
人の手だからできること

森安の帽子は、機械のように大量生産することはできません。
けれど、一つひとつに向き合うからこそ実現できる柔軟さがあります。
効率よりも「その人に合う一つを仕立てること」。
それが森安の帽子づくりの本質であり、私たちが守り続けている価値です。