―― 微妙な曲線を、手でつくる。
キャスケットは、もともとヨーロッパで労働者や新聞配達員の帽子として広まり、今では男女問わず日常の装いに取り入れられる定番の形となりました。軽やかでカジュアルなのに、どこか上品さがある。かぶる角度や形の違いで印象が変わる、表情豊かな帽子です。
しかし、その繊細さゆえに、キャスケット制作ではほんの数ミリの違いが全体の印象を左右します。
丸みの出し方、つばの角度、腰の高さ――その“わずか”なバランスが心地よさを決めます。
森安では、ブランドやデザイナーから寄せられる多様なキャスケットデザインを、素材の特性に合わせて最適なフォルムに仕上げています。特に女性向けのキャスケットでは、柔らかな曲線や自然な丸みが求められることが多く、
手作業による微調整を大切にしています。
手蒸しで生まれる、キャスケットの表情

キャスケットの「柔らかさ」と「品の良さ」を両立させるため、森安ではプレスではなく“手蒸し”という昔ながらの方法を守り続けています。木型に蒸気をあてながら、素材の動きを見て少しずつ形を整える。そして最後の「型直し」で仕上げる微妙な曲線が、帽子全体の表情を決めます。
森安の役割は、デザイナーの理想を正確に、そして美しく形にすること。そのための技術と手間を惜しみません。
帽体の検品、地のり、下上げ、型入れ、まとめ、追いのり、型直し、出荷前検品まで ―― 一つひとつの工程を積み重ねながら、素材や生地の特性に合わせて微妙な加減を変えていきます。
数ミリの違いを見極める感覚

キャスケットは、形のバランスが命。数ミリのズレでも全体の印象が変わってしまうため、職人は帽子の雰囲気を見ながら、のりの濃度や蒸気の温度、引っ張り具合を経験で判断します。生地の厚みや織りの違いによっても手蒸しの仕方を変え、最も自然で美しいラインを引き出します。
「顔が決まった」と感じた瞬間 ―― それが、森安の職人にとって“うまくいった”と感じる瞬間です。
森安が受け継ぐもの

森安では、長年お取り引きさせて頂いているブランドの定番キャスケットを、15年以上作り続けています。そうした長い信頼の積み重ねが、森安の強みです。
ときどき、新しいお客様が帽子を持ってこられて「これ、つくれますか?」と尋ねられることがあります。
見ると、それが森安で仕立てたものだったりします。
ブレードのキャスケットは特に、「どうやって縫っているのかわからない」と言われることが多いです。
縫ったあとの処理や仕上げの部分に、森安ならではの仕事が詰まっています。
今、日本の帽子づくりを支える職人は年々減っています。特に、手蒸しの工場は本当に少ないです。だからこそ、「データの引き継ぎ」ではなく「気持ちの引き継ぎ」を大切にしています。
機械ではなく、人の手でつくる。そこには、熱意が必要です。時間をかければ良いものはできるかもしれない。
でも、それを同じように100個つくるのはまた別の難しさがあります。森安では、いかに早く、きれいに、同じようにつくるか――その考え方を、ずっと大切にしてきました。
若い職人たちには、まず“手を動かすこと”を伝えたい。
量をこなして、失敗して、少しずつ覚えていく。
そういう時間の中でしか、身につかない感覚があります。
森安の帽子づくりは、そんな熱意をもった人の手の積み重ねです。そして、その熱量を絶やさずに受け継いでいくことが、これからの森安の仕事だと思っています。